何気ない記録

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値上げをしても問題は解決しない

 

「高く買わないでください」獺祭の酒造会社が適正価格で販売しない市場への意見広告を掲載、様々な意見が集まる - Togetter

値上げすればいいというのは完全な間違いだよ。値上げすると中抜きできない業者や末端の提供事業者は取扱を止める。で、結局通販程度でしか消費者は買えなくなる。製造元として消費者に届かない事ほど辛い事はない。

 

値上げをすればいいというのは、所謂ビジネスを知らない人の浅はかな考えです。

 

まず、商品を開発し提供するということは、どのようなもの(モノ・サービス)であっても消費者や利用者があってのものです。

 

つまり、製造・開発元というのは、課題や需要に対しての答えを提供する事が一つの目標であり、それと同時に事業として成功を収めるという二つの軸があります。

 

短絡的に考えると、販売価格を値上げすれば転売する人間は中抜きできなくなるか、またはそもそも取扱をする末端事業者が減るのでだれでも購入できると思われガチですが、そんな単純な構図で流通は成り立っていません。

 

そもそも、お酒を蔵本や酒造会社が全て手売りするというのはほぼ不可能です。

一方で、仮に名前が知れ渡ったお酒であっても、基本的には流通に乗せて販売するのが基本で、原則、流通にながした後はコントロールする事はできません。

 

では、ここで値上げをする、極論言えば、末端価格と記載のある2万円前後まで上げるとどうなるでしょうか。

 

まず最初に、末端事業者、つまり飲食店での提供が激減します。

飲食店は基本的にはお酒類というのは利益率が高いですから、それこそ銀座のような場所ではボトル1本分で仕入値の数倍の利益をたたき出します。もっとも、これにも絡繰りはあって、稀少なお酒が常に置いてあるというのは、それだけ流通から商品を引っ張れる所とのお付き合いがあり、そういった所無くしては常備稀少なお酒を準備するというのは不可能です。

 

まぁ、希に蔵本と直接取引しているような場所もありますが、そういった場所は消費者が誰でも触れられるかと言えば逆に難しいでしょう。

 

ではなぜ飲食店での取扱が激減するかといえば、飲食店自身も事業ですから、利益のでない獺祭を出すよりも利益のでるスパークリング清酒・焼酎を出す方がよいからです。

一つは自身の事業としての利益の確保もそうですが、もう一つは取引先として側の事情もあり利益の出ない商材よりも、双方利益の出る商材を取り扱って貰う方が両者の利益に叶うわけです。

 

この構図は販売店も同様です。

例えば、消費者がお酒を買う場所として、町の酒屋もあるでしょうが、昨今ではネット通販が非常に重宝しているかと思います。例えば楽天で考えれば中抜きできるので、定価以外での販売を行いますが、定価が2万となり、売価を2万5千円として、5千円の粗利を上げるよりも、他の流通量が多く仕入値が安い商品を例えば定価が2,000円で売価が4,000円で売れる商品に切り替える方が圧倒的に儲かります。

 

理由は単純で、消費者は2万円や2万5千円では獺祭を買わないからです。

 

このような形で、確かに一端は転売・中抜きの抑制は働きますが、これで失われるモノは獺祭を生みだした酒造家の意義です。

良いお酒を消費者に届けたいという思いがあったにも関わらず、消費者に届けない事で価格を適正にするというのは、提供する側からすると余りにも暴論です。

もはや何の為に製造したのかすらわからないでしょう。

 

また、一般的にこの手の手法は後に大きな問題を残します。

獺祭が世に出たときであればまだしも、既にスパークリングの清酒・焼酎というのはオンリーワンではありません。

既に数十種類もライバルはおり、澪など海外で成功したものも少なくなく、今ですら比較的競争にさらされている状態なのに、ここで価格を変えれば、おそらくは市場でのポジションは完全に失うでしょう。

 

もっとも、そういったお酒の味の細かい違いを理解し、好みにあったお酒を、自らの手で手配し飲むような方はそれでも変わらないでしょうが、飲食店での取扱が激減すれば規模の縮小、事業の縮小という道が必要になり、獺祭の次の商品を開発する以外に生き残りはなくなるわけです。

 

同じ商品であれば、価格を戻せば消費者はまた買ってくれるというのは幻想で、その時に一度提供されなくなった商品を、消費者が思い出しその味に戻ってくるというのはなかなかハードルが高く、それ以上に飲食店にもう一度取り扱うってもらうという事自体がかなり難しいでしょう。

 

結局、一度そういった強引な手法で流通をコントロールすればもう消費者の手の届きづらい商品となるわけです。

 

このような事情もあり完全にコントロールするには自社で販売網を構築しコントロールするしかありませんが、それでも飲食店での取扱がなくなる時点で、おそらくは年間の出荷は相当減り、事業としてはなかなか難しい事になるでしょう。

 

本来は、飲食店での取扱については別として、チケットなどと同様に極端な転売を制限できればいいのですが、これについてもいろいろな権利がありますから、難しい問題で単純な解決はできません。

 

チケット問題の場合はまだ単純です。

チケットを販売事業者が協力して定価での転売のみ可能とする仕組みを作ればよいのです。

少なくとも事業としてチケットの転売を助長しているところは、二次流通でいえばチケットキャンプのようなところか、あとはオークション程度ですからそれほど売り手・買い手への影響はありません。

 

ただ、お酒の場合は、ビジネスとしてあまりにも登場人物が多く、それらのそれぞれのビジネスやお付き合いもあり、単純に解決する事は難しい為、ああいった意見広告を出さざる得ない状況になった事は理解できます。

 

単純に酒造側の怠慢であるような意見を述べるのは無知であると理解していただき、なかなか難しい事にギリギリのラインで切り込んでいる事を理解してあげてくださいまし。