恐るべきは時間の使い方
王位戦第一局。
なかなか凄い結果でしたね。
雰囲気的には棋聖戦の渡辺三冠の得意戦型にあえて挑んだ藤井七段のように、何れあたることになる角代わりを受けるという木村王位らしい開戦となりました。
結果だけ見ると実際には一方的な結果に思えますが、その中で私が素人なりに驚いたのは藤井七段の時間の使い方でした。
今回初めての2日制でもあり、時間の使い方はなかなか難しいと私は考えていました。
時間が沢山あるという事は利点ですが、言い換えればその時間をどう使うのか、1日目と2日目でどの程度の配分とするのか、それは何処で投入すべきなのかという点も難しく、時間が長い=簡単というわけではありませんからね。
そんな中、圧巻だったのは53手目の時間の使い方でした。
局面として基本的には49手目の7五歩から51手目の7四歩がほぼノータイムで指している事から、その後53手目の7三歩成は既定路線でした。
この時点でまだ封じ手までは2時間30分ほどありましたから、ここで2時間も消費する意味はなく、もう少し手が進むのではないかとも考えてました。
というのも、この時点ではまだ後手に詰み筋はなく、その後の変化や後手の受け次第で全く流れは変わってしまいますから、その後の戦略を立てる意味でも、実際には7三歩成に対して木村王位が強く受けるのか、それとも一旦守りに入るのかという状況を見極める必要がありました。
しかし、藤井七段はこの53手目の7三歩成の一手に約1時間30分という時間を投じます。
この時点で封じ手を誰がするのかというのはほぼ木村王位の判断に委ねられます。
もっとも、封じ手自体には優劣はなく、どちらが封じ手をするとしても影響はないのですが、但し、その局面は大きく影響します。
この日、53手目の7三歩成に対して木村王位が打てる手は実質2択でした。
1つは封じ手ともなった2九角成とし、藤井七段の飛車を取り、その上で相手陣に拠点を築く手です。
もう1つは7三歩成を直接受ける為に金または何かしらの駒を動かすという手です。
ただ、実際には52手目の木村王位の9二角という手から、封じ手となった2九角成の筋が有力で、仮にそれを指さなかった場合も流れは藤井七段の攻めにおされる事は明らかでした。
(仮に逃げれば角が死んだ上に攻め手を引き続き相手に渡すわけで厳しい状況)
ここで木村王位は封じ手をするか、それとも封じ手を相手に渡すか考える必要がありますが、局面的に仮に封じ手となった2九角成を先に指せば、どちらの戦略でその後戦う事となるのか確定させる事となり、可能性に過ぎなかったものが確定してしまうという状況になります。
その為、1時間程度であればその時点での藤井七段との消費時間の差(この時点で藤井七段は3時間57分を消化し、一方の木村王位は2時間31分)を考えれば、封じ手を自分がする方が良いと判断する事は理にかなっています。
が、余りにも局面が限定されすぎており、どちらを選んでも厳しい状況でした。
結局翌朝の封じ手に対する藤井七段の手は6二とで、これをほぼノータイムで打つわけですが、それもそのはずでこれは2九角成を指された時点で大凡だれであってもそうする手順ですから。
仮に木村王位が2九角成とせず別な手であればその時点で考えても良いですし、拠点となる7三とがとられてしまえば飛車を逃がせば良く、逆に7三とがとられなければ角を殺せば良い(それも、実際には飛、角、香の何れか二つが手に入る為、確実に駒得する流れ/もっとも取りに行くのは私みたいな素人でおそらくプロは殺すだけで放置)だけであって実質どの手順であっても藤井七段が優勢な状況はおそらく変わりませんでした。
つまり、この勝負、1日目の封じ手前の時点で大きく形勢は動いており、それを封じ手という不慣れな場をつかって確定させるという恐ろしい事をやってのけていたわけです。
木村王位が「封じ手のところでは苦しいうえに変化のしようがないので、一方的な感じになりました」と仰っているように、実際にはその前の時点49手目の7五歩を指された時点でその後の流れはハッキリしていたので、9二角という手による牽制自体が無意味であったように思えます。
これは木村王位の手がどうであったか、という話し以前にそこまでの流れとあの封じ手の局面をあのタイミング、時間差が明らかにあり手番を回す意味がないという状況までも作り出した時間の使い方の妙が全てであったように思えますし、この雰囲気でいえば、2日制というのは藤井七段の強さをより強くするもののようにも感じます。
もっとも、1日制である棋聖戦で渡辺三冠相手に2連勝している時点で2日制の時間の使い方に注目は集まらないかもしれませんが、この時間の使い方というのはもっと賞賛されてもよいのではないかと感じました。
以前時間の使い方が課題としえて挙げていた藤井七段ですが、この状況を見る限り明らかに時間の使い方という点で勉強されているという事がわかります。
しかし、羽生九段を超える天才が自分が存命の間にそう易々とでててこないだろうと思っていると、渡辺三冠、広瀬八段が存在感を示し、そうしていると豊島竜王・名人が天才の評に恥じない結果で力を見せる時代が来たかと思えば、もう次の世代として永瀬二冠がそこに並びつつあるわけですが、そうこうしているうちに藤井七段というさらに次の世代が台頭してくるという恐ろしい状況です。
また、西山三段/女流三冠の存在も大きい事は言うまでも無く、なんというか、非常に面白い時代に自分は生きているなぁ、という事を実感しており、願わくば自分が存命の間に女性プロ棋士と男性プロ棋士の7番勝負というものを見てみたいなと思わずにはいられませんね。
そういえば、プロ棋士になった場合、女流棋戦はどうするのだろうか・・・。
藤井七段の状況を見てもかなり対局数が多く非常に厳しいわけですが、これにさらに女流棋戦を含めるとなると現実的なのだろうか・・・。
(なお、既に規定は改定され両方に属する事は可能になっています)
新型コロナウイルスで止まっていた時が一気に動き始めているわけですが、将棋、野球、サッカー、F1と私が視聴するものはどんどん話題を提供してくれており嬉しい限りです。
こういった日常が送れる、少なくとも警戒や制限はありながらも送れるという事に、やはり感謝せずにはおられませんね。